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有識者が語る 加藤信介
信州大学工学部建築学科 環境設計学 教授(工学博士)
東京大学生産技術研究所 人間・社会部門 教授
センター長(工学博士)
J建築システム株式会社 代表取締役
博士(工学・農学) 一級建築士
加藤信介  

加藤 信介 (かとう しんすけ)

  • 東京大学生産技術研究所 人間・社会部門 教授
  • センター長(工学博士)

専門

  • 建築(建築意匠、建築構造、都市計画、建築環境、建築材料等)
  • 人間環境

 

壁体内通気工法に関して

建築の外装を工夫して厳しい外部環境に対抗して優しい室内環境を作る代表的な手法として、「ダブルスキン」があります。「ダブルスキン」は英語ですが日本語に訳せば、「二重の外皮」ということになります。これは建物の外装部、屋外側の仕上げをとなる外皮を二重にしてその間に空気の流通する空気層を設けるものを言います。空気層の外側の外皮はいわば建物の日傘とも考えられるもので、これにより日射や雨、風を受け、たとえそこから熱や雨水や湿気が侵入しても通気のある空気層でこれを逃がして室内側に侵入させないでその内側を守り、効率よく室内環境の質を向上させるものです。すぐお分かりのようにポイントは空気の流通する通気層であり、外部に面する外装材がその面に対して直角方向に侵入しようとする日射熱や雨水、湿気を鉄壁にを防いでくれなくても、この通気層でこれら侵入した熱や雨水や湿気を面に平行方向に逃がし、結果として面の直角方向の防御力を著しく増大させることにあります。壁体内通気をとる建築工法は、基本的にはこのような「ダブルスキン」で作られる空気の流通する通気層の利点を享受するもので、壁体にこの通気する空気層を断熱層の外側のみならず室内側にも設け、その防御力を一層向上させることが期待できます。断熱材を挟んだ2つの通気層のうち外側のものは外気と通じており、侵入した熱や雨水、湿気を外気に逃し、通気層内の空気は外気の条件(温度や湿度)に近づきますが、断熱層の内側の通気層は、床下空間(縁の下空間)と屋根裏空間に通じており、特に通気が床下から屋根裏空間に向かうものであれば通気層内の空気はこの床下空間の空気の条件(温度や湿度)に近づきます。

断熱材の室内側の壁体内通気をとる建築工法は、この床下の空気が室内の仕上げ面と断熱材の間の空気層を通るため、室内の仕上げ面の温度を床下空間の空気によりコントロールすることが可能になります。床下は日射が当たりません。地盤の温度は一般にその場所の年の平均温度になると言われています。すなわち、夏は外気温より低く冬は外気温より高くなります。床下の空気はこの地盤に夏は冷却され冬は加熱されます。もちろん床下空気の湿度が高いことは好ましいことではないので、地盤から床下に湿気が上がらないようする必要がありますが、夏は外気より温度が低く冬は外気より温度の高いこの床下の空気を室内側の通気層を通してあげれば、それだけ夏の冷房エネルギーや冬の暖房エネルギーを削減できます。

今回、解析した例は限られますが、夏場の冷房エネルギーを15%近く削減できる可能性が確認できました。これは断熱材の室内側の壁体内通気を取る建築工法が地中熱を有効に利用できる可能性を示すもので、解析を担当したものとしても喜ばしいことと思っています。

断熱材の室内側の壁体内通気をとる建築工法は、結露などにともなう壁体の腐朽防止にも極めて有効と考えられます。一般に住宅はたくさんの湿気を出します。人も一日に多くの湿気を出しますが、炊事、洗濯、風呂など様々な行為からも湿気が室内で生じます。室内に比べ屋外の温度が低い時、壁の中の温度は外側ほど外気の温度に近く、室内側は室内温度に近く、温度が大きく変わります。湿気は、熱が温度の高いところから低いところに流れるように、空気の流れがなくても、湿度の高いところから湿度の低いところに移動します。室内の湿気は室内から壁面に直角方向に屋外の湿度が低いほうに向かって移動するため、壁体の温度が露の付く温度(露点温度と言います)より低いところでは、結露すなわち液体の水になってしまいます。カビなど微生物による腐朽はこのような水が存在して初めて生じます。壁体内で結露が生じることは耐久性の面から避けなければなりません。しかしながら断熱材の室内側の壁体内通気をとる建築工法は、この室内から壁面に直角方向に屋外の湿度が低いほうに向かって移動する湿気を通気層で捉えてこれを排出するので、結露の生じる可能性を大きく減じます。また雨水と同様で、たとえ結露で液体の水が生じてもこの通気層で排出できます。なお、壁体内の結露防止には、室内側に防湿シートを施工して室内の湿気が壁体を通過しないようにする工法もあります。しかし、室内側の防湿シートを鉄壁に施工することは極めて難しいことです。電気のコンセントなど様々な設備が壁につけられますが、それらの設備を取り付けたところで完全な防湿面を形成することは至難です。侵入してきた湿気を通気層で排出する戦略は、必ずしも室内側の鉄壁の防湿を必要としない、とてもしなやかに強固な工法だと言えます。